事業計画&重点項目


令和5年度 北九州市医師会事業計画

2020年1月に国内初の新型コロナウイルス感染症患者が確認されてから4年、この間我々は国からの二転三転する弥縫策や猶予なく次々と求められる依頼の数々に振り回されながらも各区医師会や対応医療機関、会員らの献身的なご支援ご協力を得て奔走し、様々な対策に取り組んで来た。
変異を繰り返しながら流行の波を築くウイルスに対し、未だ画期的な治療薬はなく、収束に向けた対応が続くが、国はここに来て感染拡大防止と社会・経済活動の両立をはかるとし、ウィズコロナへと政策転換をはかった。
ただ、医療現場においては今後も目の前の患者に必要な検査や治療を施すことに何ら変わりはなく、会員には引き続き医師にしか担うことの出来ない役割であることに強い誇りを持ってその使命を果たすよう、強く呼びかけていきたい。
4年にもおよぶコロナ禍において、我々は多くのことを経験し学んだ。
発生当初は日本中から最前線で奮闘する医療従事者へ感謝の意が示されていたが、長期化するにつれ、マスコミによる一部のかかりつけ医への批判や医療機関への補助金を問題視する偏向報道等もあり、世論も徐々に変調を来たすようになった。
誤った情報や印象操作により市民が誤想して不信感を抱いたり、使命感を持って献身的にコロナと向き合う医師の意欲が削がれることのないよう、時に行政に対して、時にマスコミに対して正しい情報を積極的に発信し、喧伝された流言飛語を正していかなければならない。
さて、ウィズコロナ時代を迎えての当面する課題は次年度からはじまる働き方改革をはじめ、トリプル計画(第8次医療計画・第4期医療費適正化計画・第9期介護保険事業計画)やトリプル改定(診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬)への対応、コロナ禍において中断していた全世代型社会保障制度の構築に向けた議論の再開である。
全世代型社会保障制度の中核を成すのは給付と負担のバランスを確保しつつ、若年期・壮中年期・高齢期のすべての世代が安心できる社会の実現であり、特に子育て世代への支援と安定的な医療・介護提供体制の確立が急がれる。
また、件のとおり、財界やマスコミを中心としたかかりつけ医の在り方に対する批判から政府の「経済財政運営と改革の基本方針」いわゆる「骨太の方針2022」ではかかりつけ医機能が発揮される制度設計が謳われ、更に財務大臣の諮問機関であり、経営や経済学の学者と企業の役員らから成る「財政制度等審議会」の「建議」ではかかりつけ医機能の要件を法制上明確化することや認定する制度の創設が提唱された。
かかりつけ医とは本来患者との信頼関係の上に成り立つ患者側からのみの親しみが込められた呼称であり、国や医療側から求めるものではなく、決して制度化、増してや法制化するようなものではない。日本医師会はこうした動きに対抗すべく「医療政策会議・かかりつけ医WG準備会」を立ち上げ、平時と有事に分けて、かかりつけ医が国民の健康の保持増進に資するための取りまとめに着手した。
本会はこれを支持し、患者から親しみを込めてかかりつけ医と呼ばれるよう、会員に自己研鑽と自助努力を促すとともに、かかりつけ医がその機能を如何なく発揮できるようあらゆる手立てを講じて支援していく。
次に、全世代型社会保障制度を構築していくためには、コロナを経た新たな地域医療構想と地域包括ケアの更なる推進が必要である。
地域医療構想については厚生労働省が指摘するとおり、形式的な議論により形骸化することのないよう、改革に向けての時間軸や地域軸を意識しながら、感染症対策の視点も含めた医療機能の分化と連携、選択と集中について真摯な議論を行い、高質かつ効率的で持続可能な医療提供体制を整備し、地域に集う医療関係者が自らの手で地域完結型医療を作り上げていかなければならない。
更に外来医療は今、入院医療は2035年頃がピークとされる中にあって、在宅医療は2040年まで需要が増加し続けると推測されており、引き続き「在宅医療講習会」の開催を通じるなどして、意欲ある医師が在宅医療に取り組むうえで抱えている不安や懸念を払拭しながら、在宅医の増加をはかりたい。
一方、地域包括ケアについては今後も高齢の単身世帯や夫婦世帯が増加し、家族介護や地域コミュニティの希薄化による地域機能の低下により、支え合う力が弱体化していくため、公的サービスの役割が増し、国はこれまで以上に高齢者を孤立化させないための社会的包摂を推進するとしている。
「治し、支える医療」は医療だけでは対応できない。看護・介護・生活支援等による文字どおりの包括的な対応が必要であり、多様な職種が一層の連携強化をはかるとともに、引き続きかかりつけ医が中心となって地域の医師会や在宅医療・介護連携支援センター、地域包括支援センター、診療所、病院、高齢者施設等がそれぞれの機能や特性に応じた役割を担いながら、健康づくりや介護予防に取り組んでいかなければならない。
次に、自見はなこ参議院議員らの尽力により、4月から「こども家庭庁」が創設され、こどもを中心とした切れ目のない子ども子育て支援の強化がはかられる。本市においてもその理念を共有し、4年目を迎える「北九州市元気発進!子どもプラン(第3次計画)」に基づく各種の子育て支援策の推進に取り組む。
これらの改革に必要な財源に関しては2018年に内閣府・財務省・厚生労働省が連名で「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」を発表したが、その後、国はコロナ対策に100兆円以上とも言われる莫大な費用を投じたことから、近々最新の将来推計人口を基にした新たな見通しを示して来ることは必至である。高齢化に伴い受療率の増加や受療期間が長期化し、これに対応する医療技術の発展と医療水準の向上から、より多くの治療が可能となる反面、医療・介護費は確実に増加する。
重要なことは国が進めるプライマリーバランス(基礎的財政収支)の健全化に向けた対応に理解をしつつも、財源あっての給付という視点のみに縛られ過ぎることのないよう、制度設計の段階より適正な支出バランスか、効率化がはかられているか等を注視していかなければならない。
また財源問題と関連して必ず遡上に挙がるのが、首相自らが推進本部長を務め、厚生労働大臣が「待ったなしの課題」とする医療DXの問題である。
スイスの機関が毎年発表している世界デジタル競争ランキングにおいて、直近の日本は韓国(8位)・台湾(11位)・中国(17位)に大きく遅れを取った過去最低の29位であり、対応に時間がかかり過ぎることなど俊敏性の低さが問題視されている。国はコロナでの経験を踏まえ、今後すべての分野においてデジタル化を進めようとしており、この流れは医療分野においても避けて通ることは出来ない。
ただし、それは福祉を向上させ、真に国民の生活を豊かにし、利用者の有用性や利便性を高めるものでなければならず、これを隠れ蓑とした関連産業の支援や経済対策であったり、決してデータの集積・管理が第一義の目的であってはならない。取り分け医師会においてはこうした問題が不得手な一部の会員がデジタルデバイド(情報格差)により取り残されることがないよう、きめ細やかな支援に努め、国の施策の中核となる「医療DX令和ビジョン2030」には医師の事務的業務をはじめとした現場の負担軽減に繋がるような政策は推進する等、是々非々の立場で対応していく。
かつてThe Lancet(ランセット)が「日本の平均寿命が高いのは医療制度が優れているだけではなく、『清潔を好む文化』『高い教育水準』『平等主義的な社会』『食生活や身体活動での好ましい伝統』があるからだ」と評した一方、「現在の高い評価は決して将来までをも保証するものではない」という警鐘を鳴らした。
あれから未曾有の少子高齢社会を迎え、コロナを経て今、改めてこの評価を誇りに思うとともに警鐘については正に今がその正念場にあるのだと真摯に受け止めなければならない。
特に、高齢者における医療・介護費や保険料の負担増、年金の減額をはじめ、働く世代の恒常的な低賃金化、物価の高騰による家計の圧迫は今後も患者の意志に反した受診控えに繋がり、症状の悪化を招く恐れが大いにある。
北九州市医師会はこの厳しい時代のなかではあるが、国民皆保険やフリーアクセスといった世界に冠たる優れた日本の医療制度を堅持するための一翼を担うべく、今年度も引き続き県医師会や各区医師会・専門医会・産業医科大学等と問題意識や課題を共有しながら、関係をより深化させ、行政や関係機関と一体となって保健・医療・介護にかかる諸施策の推進に取り組む。
そのために役員は英知を結集し、工夫を施しながら効率的な会務の運営に努め、市民が生涯を通じて心身ともに健康で豊かな生活を送れるよう、市民生活の根幹を成す社会保障制度の充実に専心すべく重点項目をはじめとした事業項目の推進に邁進する。


令和5年度 北九州市医師会重点項目


1.感染症対策
新型コロナウイルス感染症の収束に向け、引き続き県医師会や地区医師会、行政らと連携し、必要な対策が機動的に施せるよう、検査体制や発熱外来、オンライン診療対応医療機関の拡充等、医療資源を確保しながらあらゆる手立てを講じていく。
今回の感染対策の経験を生かして、平時より行政や感染症指定医療機関・急性期病院・療養病院・診療所・高齢者施設との連携を深化させ、保健所や夜間休日急患センターには更なる機能強化を求めるとともに、感染拡大時やゴールデンウイーク・お盆・年末年始等、医療提供体制が手薄となる期間を含めて万全の体制を整えていく。
また、「感染対策カンファレンス」や「北九州地域連携カンファレンス」「医療安全対策研修会」等の開催を通して、医療従事者の感染症に対する知識や技能を高めるなど、医療機関が取り組む新興・再興感染症対策を支援する。
更に、近年急増する梅毒をはじめとした性感染症や依然として年間に約13,000人の新規患者が発生する結核等、既存の感染症に対しても重要となる日頃からの啓発や積極的な検査による早期発見・早期治療に取り組む。
一方、市民に対しては感染対策の一環としての新型コロナワクチンおよびインフルエンザワクチンについて、行政と連携しながら、特に接種率の低い若年層に根気強く呼びかけ、ワクチン接種の促進をはかる。
 福岡県がワンヘルス対策における先進地区として、人と動物の共通感染症対策や共生社会づくりの推進等、先駆的な対応に取り組む中、本会においても北九州市や北九州市獣医師会と締結した「ワンヘルス推進宣言」に基づき、市や県が設置するワンヘルスセンターと連携した感染対策の他、市民に対して正しい知識の普及に向けた啓発活動等の社会活動に取り組む。
2.医の倫理と医療安全対策
医学・医療の目まぐるしい進歩や患者意識の変容もあり、近年医師と患者の関係は複雑化して来ているが、医療はその本質である自己の利益のためになすものではなく、人類愛を基に博愛と奉仕の精神をもって、すべての人のために尽くさなければならない。
そのため、医師は常に高度な倫理観と医師としての矜持を持って自らを律しながら、弛まぬ自己研鑽を通して知識と教養を深め、人格を高めて日々の診療や地域活動に取り組まなければならない。
高齢社会を迎え、医療がこれまでの診断・治療に加え、支える医療、緩和ケアをも包含するものへと大きく変化する中、日本医師会はより時代に即した内容とすべく約20年ぶりに「医の倫理綱領」を改訂した。
世界医師会の「医の倫理マニュアル」や福岡県医師会の「医道五省」等とあわせて周知徹底し、医師としての職業倫理指針を示すとともに会員一人ひとりの自浄作用を活性化させていく。
また医療の公共性を重んじ、法規範の遵守と法秩序の形成に積極的に努めるとともに、医療を通して社会の発展に尽くすべく地域活動にも積極的にその使命を果たしていかなければならない。
安全安心な医療は医師と患者・家族の信頼関係の根幹を成すものであり、引き続き医師・従事者へ「医療安全対策研修会」や「ハートフル研修会」等、市医師会や県医師会が開催する研修への積極的な参加を促し、患者の安全確保と医療の質の向上を最優先とした医療安全対策の推進に取り組み、市民の医療への信頼をより一段と高めていく。
日本医師会医師資格証の普及を通して、会員としての意識の高揚と医師としての使命感や職業倫理の醸成をはかる。
3.生涯教育の充実
生涯教育は医師にとって本質を成すものであり、本会においても日本医師会の「医師は日進月歩の医学・医療を実践するため、生涯にわたって自らの知識を広げ、技能を磨き、常に研鑽する責務を負う。医師の生涯教育はあくまで医師個人が自己の命ずるところから内発的動機によって自主的に行うべきもの」とする理念に基づき、会員支援に努める。
特に医師が最新の技術や知見を習得し、臨床医学の実践における医療水準を満たした医療を提供出来る様、必要な情報を提供し、スキルアップや安全対策、患者との信頼関係の醸成等をはかるべく生涯教育制度の更なる充実に取り組む。
研修会については、各区医師会や専門医会、関係機関と連携して、時流にそった医学的・医療的テーマを選定し、より多くの医師が生涯学習に参加できるような体制を整えるとともに、ウィズコロナ時代にふさわしいよりよき研修体制のあり方について引き続き検討を行い、多様な履修環境を提供し、日医生涯教育制度の申告率・達成率の更なる向上を図る。
4.地域医療提供体制の充実
2024年は働き方改革とともに医療・介護・障害のいわゆるトリプル改定と第8次医療計画・第4期医療費適正化計画・第9期介護保険事業計画のトリプル計画が新たにはじまる年であり、その内容が検討される今年は極めて重要な一年となる。
コロナを経験してより強靭な医療提供体制を構築していくためには、各区医師会との更なる連携強化が必要である。地域の実情に応じて策定する地域医療構想は市と区が絶えず情報を共有しながら、外来医療計画や病床の機能分化・連携等について、忌憚のない議論や検証を行う場として、地域医療構想調整会議をより活性化させていく。
また研修については、現場に即した内容やタイムリーなテーマを取り上げ、地域の医療・介護に取り組む施設やその従事者を支援し、地域における医療・介護の更なる充実と質の向上をはかる一方、北九州市や関係機関と連携し、障害者施策や難病・発達障害者支援にも注力する。
更に、救急・災害時や生涯保健等、切れ目のないサービスの提供を目的に取り組んでいる北九州とびうめネット(医療情報ネットワーク)の更なる拡充を図り、迅速で適正な医療の提供を推進する。
2025年以降、高齢者人口の伸びが徐々に落ち着いて来る一方、20〜60歳までのいわゆる生産性人口(現役世代人口)が急減し、高齢化のピークとされる2040年には必要とされる医療・介護就業者数に対し、100万人の不足が確実視されている。
人材の養成や確保は一朝一夕で解決できる問題ではなく、また少子化対策から就業に関わる大きな問題でもあることから、各区医師会や上部団体と絶えず問題を提起し続け、少しでも解決策を見出して行かなければならない。
特に、地域医療の重要な担い手である看護師の養成については、学校間における情報や課題を共有し、引き続きその在り方についての検討も行う。
5.救急・災害医療対策
救急医療の充実は毎年北九州市民を対象として行われる意識調査において、「評価」「要望」とも絶えず上位に挙がる市民にとって関心の高い問題であり、安心安全に暮らすための根幹を成す政策である。
夜間休日急患センターやサブセンターへの出務等、初期救急医療に積極的に協力するとともに、二次・三次救急、周産期及び小児救急医療にも注力するなど、市民からの需要と期待が高い救急医療の充実に努める。
一方、関係機関と協働しながら「救急医療電話相談#7119」の周知をはじめとした市民の適正な救急受診に対する啓発活動にも取り組む。
またコロナを経て、救急医療のあり方や出務医の安定的な確保等を時代に即したものとするべく、引き続き各区医師会や専門医会とより良い制度に向けた検討を行い、救急医療提供体制の更なる充実と安定化をはかる。
近年、地震や大型台風、集中豪雨等、各地で災害が頻発する中で、日頃からの緊急連絡網訓練の実施や災害医療研修等を通して、会員や従事者の災害医療に対する意識を高め、災害医療に関する知識と技術の向上に取り組む。
また医師会役員はもしもの際に遅滞なく指導的役割が果たせるよう、より実践的な対応を体現できる災害医療作戦指令センター(DMOC)による訓練に積極的に参加するとともに、実態に即した「医療救護計画」の改訂に向けた検討を行う。
6.少子高齢社会対策に向けた取り組み
平成以降、この30年あまりの間に日本の高齢化率は12%から28%へと急速に進んだ。かかりつけ医は予防から検査・診察・診断・治療、その後の対応から必要に応じた高次医療機関や必要な施設への紹介に至るまで、身近に何でも相談できる存在として、少子高齢社会対策の中心的役割を担い続けていかなければならない。
多様な職種や機関との連携推進や研修機会の提供等、引き続きかかりつけ医の支援に努め、患者や利用者が可能な限り住み慣れた地域で、それぞれが有する能力に応じて自立した日常生活が送れるよう、地域包括ケアを充実させる等、地域の実情に即した医療・介護提供体制の構築に努める。
医師や医療・介護従事者を対象とした各種研修会の開催を通して、より質の高い医療・介護の提供や高齢社会対策の担い手となる人材の育成をはかる。特に今後も患者需要の増加が予測される在宅医療については、会員が取り組むための立場に立った研修を企画し、必要な情報を提供していくなど、在宅医療に参画するために障壁となっているものを1つずつ取り除き、担い手を増加させていく。
認知症は2025年に700万人、実に高齢者の5人に1人がなると見込まれており、北九州市も約4万人が罹患している。国は対策の基本を「予防」と「共生」の両輪による対応としており、本市においても「北九州市認知症施策推進計画(通称:北九州市オレンジプラン)」をベースとして、市の認知症支援・介護予防センターや認知症疾患医療センター、ものわすれ外来、認知症初期集中支援チームをはじめとした様々な役割を担う多様な機関と連携しながら、予防啓発、医療、生活支援等に注力するとともに担い手の育成にも努める。
本年4月より、国が進める「こどもまんなか社会の実現」の一環として、「こども家庭庁」が新設された。本市においても縦割りでなく、受け手(利用者)の立場に立ってすべてのこどもたちを見ていこうという視点からの子育て支援を支持し、これに協力していく。
乳幼児・園児に携わる医師や関係機関を対象とした研修を企画・開催し、質の向上をはかるとともに、乳幼児健診やペリネイタルビジット、産科健康診査をはじめとした子育て支援の充実を通して、市が目指す「日本一子育てしやすい街」の実現を目指す。
また虐待予防や医療的ケア児への対応にも取り組み、市が中心となって進める発達障害者への地域支援にも積極的に協力し、これを推進していく。
7.地域保健活動の推進
北九州市や関係機関と連携し、予防接種や感染症対策の他、乳幼児期から学童期・青年期・壮年期・老年期に至るライフサイクルに応じた生涯保健事業を実施し、またアレルギー対策を含めた学校保健活動や職域における健康の推進等に取り組む。
治療ばかりでなく、人生に寄り添う医療が求められる中にあって、相談から治療、その後の対応に至るまで、多様な役割を担うかかりつけ医を支援し、その機能の強化をはかる。
恒常的な生活習慣による高血圧・高血糖等は死因のリスク要因であり、生活習慣の改善や行動変容を促す等の啓発を行うとともに、市民の健康づくりを支援し、現役世代からの健康づくりや高齢者への介護予防を推進して、健康寿命の更なる延伸をはかる。
特定健診・特定保健指導については受診率が3割強であり、国の設定する受診率を60%にするという目標値との乖離が大きいことから、特に受診率が低い40〜59歳世代を中心とした受診勧奨を強化し、受診率の向上に注力する。
我が国の死因第1位であり、毎年40万人弱の方が亡くなられているがんについては、新たに発表された国の第4期がん対策推進基本計画に則って行政や関係機関と連携し、諸外国と比べて低い検診の受診率と精密検査受診率の更なる向上をはかるべく、啓発の徹底や相談・情報提供の充実をはかり、第3期基本計画から続く全体目標の3本柱である「予防」「医療」「共生」を推進する。毎年約1万人の女性がかかり、約3,000人が亡くなられている子宮頸がんについては、発症年齢のピークが若年化しており、HPVワクチンの定期接種化に際し、専門医会と連携しながら、本市の対策キャッチフレーズである「お母さんは検診、娘さんはHPVワクチンを」を徹底していく。また女性の9人に1人が乳がんになる時代と言われ、部位別がん罹患者数が圧倒的に多い乳がんについてはピンクリボン運動をはじめとした各種のイベントとタイアップするなど、検診受診率の向上に注力するとともに、一昨年より始まったデジタル読影の円滑化と充実をはかる。
また循環器病は年間31万人超の方が亡くなるがんに次ぐ主要死因であり、発症後には早期の治療開始や回復期・維持期にも再発や憎悪を来たしやすい。健康寿命の延伸をはかるためにも新たに策定された第2期循環器病対策推進基本計画に沿って、予防を目的とした正しい知識の普及啓発や早期発見早期治療に繋げるための小児期からの切れ目のない健診体制の充実等、循環器病対策の推進に取り組む。
喫煙はがんをはじめとした循環器疾患や糖尿病・慢性閉塞性肺疾患等、生活習慣病の最大の危険因子であり、国の「現在及び将来世代を保護する」という方針に沿って、未成年者や妊婦・望まない受動喫煙をなくすための対策に取り組むとともに喫煙率自体の減少にも努める。
更に、各区医師会と一体となって、地域産業保健センター事業を活性化させ、予防や早期の対応が必要な職域保健の充実に取り組む。また産業医に対しては「作業管理」「作業環境管理」「健康管理」の3管理に加えて、近年長時間労働者や高ストレス者へのメンタルヘルス対策が求められていることから研修や情報提供の充実に努める。
8.勤務医活動の支援
勤務医医学研究助成論文事業を実施し、勤務医の研究活動の支援に取り組むとともに、県医師会や日本医師会との連携、情報共有、医学集談会の開催等を通して、開業医との連携の推進に努める。
北九州専門医レジデント制度や研修医歓迎レセプション、研修医症例報告事業等を実施し、研修医の支援をはかるとともに、本市における医師・研修医の安定的な確保をはかるべく実状に即した対応を行っていく。また日本医師会が進める勤務医・若手医師の入会促進と入会後の定着、医師会活動への積極的な参加策を支持し、本会においても広く呼びかけ、同様に取り組む。
「医師の偏在対策」については、相互に関連し合う「地域医療構想」「医師の働き方改革」との三位一体改革として都道府県単位で検討が行われることから、日本医師会の「医師の負担軽減」や「地域の特性に基づく確保対策」「多職種連携の推進」という立場を支持し、人口や医療提供体制・医療機能等からみて、真に適正な配置となるよう関係機関に働きかけていく。
9.働き方改革
来年に迫った「医師の働き方改革」については、応召義務や保険制度をはじめとした違いや献身性を尊ぶ国民性による影響もあるが、日本の医師はアメリカの医師の5倍働いているという現実があり、日本医師会が進める「医師の健康への配慮」と「地域医療の継続性」の両立という観点から、2035年度をも視野に入れて、医師個人の希望が反映されるような働き方改革を進めていかなければならない。
しかしながら、現状は救急や周産期等、医療資源が僅少な分野においては大学病院等からの医師の派遣がなければ制度を維持することが困難であり、このままではシステムが瓦解し、市民生活への影響は計り知れないものになってしまう。
会員においても未だに意識が低いこの問題について、引き続き啓発をし続けるとともに、医師会が中心となって早急に行政や派遣元医療機関、救急医療機関、受入医療機関等との話し合いを通して課題を洗い出し、問題点を共有するとともに解決に向けた協議・調整に取り組んでいく。
それでも地域における努力だけでは解決しえない絶対的課題については、上部団体や関係機関を通して、強く是正を求めていく。
10.男女共同参画事業の推進
世界経済フォーラムが発表した直近のジェンダーフリーランキングにおいて、日本は153カ国中120位という現状を踏まえ、医療界においてもその推進に努める。
女性医師が抱える問題を医師会全体で共有し、対応していくための一環として開催している「男女共同参画推進部会研修会」をはじめとした活動をより充実させるとともに、行政や関係機関との連携をはかりながら、女性医師がより働きやすい環境作りに取り組む。
また日本医師会や県医師会が開催するセミナーに積極的に参加し、見識を高めるとともに最新の情報等を積極的に会員へ提供していく。
更に地域における女性医師指導者の育成をはかるとともに引き続き女性医師が医師会活動に積極的に参画できるような体制づくりを進める。
11.広報活動
市医報、北九医FAXニュース、ホームページ等の充実を通して、必要な情報の迅速な提供に努める。
また、県医師会と連携して市民への医師会活動の周知をはかるとともに、医師会への理解を高めていくための情報発信方法等について検討を行う。
12.会員支援
医師会として会員相互の融和促進や会員福祉の向上を図るべく休業時の補償制度の充実や医業経営支援のための研修会の開催、診療報酬の算定をはじめとした医療保険に関する情報を迅速に提供していく。
13.公益社団法人としての適正運営
公益社団法人として相応しい会務の運営や公益目的事業の円滑な遂行を通して、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与し、また法人の安定的な運営に努める。
14. その他
本会は今年度、創立60周年の節目を迎える。これを機とした更なる組織の強化と発展を目指し、記念事業を開催する。